強いブランド力を取り戻せるか。業績低迷のグンゼの挑戦

 中高年の男性で昔、グンゼの白のブリーフをはいていたという人は多いのでは。メンズのアンダーウェアといえば、今ではカラー物のブリーフやボクサーパンツ、トランクスが売り場のほとんどを占めていますが、かつては綿の白のブリーフが定番でした。そのなかでも、グンゼのブリーフは日本製で品質がよく、男性肌着のブランドとして圧倒的な支持を得ていたのです。肌着は専業メーカーが製造するアイテムだったこともあり、数十年前のグンゼといえば、肌着とストッキングのメーカーとして誰もが知るブランドでした。

 

 ところが、ユニクロをはじめとする国内外の低価格SPAが台頭して以来、専業メーカーの寡占市場だったインナー市場も侵食されはじめ、インナーアパレルのシェアは減少しているのが現状です。肌着を購入する店も、百貨店や量販店の平場や下着専門店だけでなく、フルアイテム展開するSPAや雑貨小物店、ネット通販と多岐にわたっています。

 

 こうした市場変化に伴って、グンゼという企業ブランドの知名度もここ数年、低下傾向にあります。日経BPコンサルティングが行なったブランド評価調査によると、2013年のグンゼの総合力ランキングは1500ブランド中215位で前年より低下。ブランド認知度は92.3%で、とりわけ若い世代で認知度が低下しています。とくに「卓越性」「革新性」においての評価が低く、製品や技術に対する信頼度が高い一方で市場変化への対応がやや遅れている印象を持たれていることがわかりました。かつては100%近い知名度のブランドだったわけですから90%台とはいえ、看過できない数字です。「ボディワイルド」という商品ブランド名を知っていても、グンゼが製造販売していることを知らない若者も多いわけです。

 さらに同社が行なった社員アンケートでも厳しい現実が浮き彫りになりました。企業ブランドが「仕事に役立っているか」「必要と感じる」かという問いに対して、3分の1の社員が「役立っていない」「必要と感じない」と答えたそうです。

 

 ブランド力の低下は、業績悪化にもつながります。グンゼのアパレル事業はリーマンショック以来、低迷。2013年3月期の売上高は約700億円、営業利益は14億円で、20年前に比べると売上高は70%、利益は30%に減少しました。アパレル事業は全社売上高の52.5%を占めるものの、営業利益では26.5%にとどまっているのも大きな問題です。ちなみに、ペットボトルなどに使われるプラスチックフィルムやタッチパネルを生産販売する機能ソリョーション事業は今後、成長エンジンとして大きな期待が寄せられています。

 

 同社の児玉和社長は28日、大阪商工会議所で開催されたフォーラムでブランド戦略について基調講演を行い、ブランド力が低下している現状をこう語りました。

「ブランド力が弱体化していることは自分でも感じていましたが、調査の結果は予想以上に厳しいものでした。グンゼの知名度は20、30年前にはほぼ100%でした。それが低下した原因としては第一に、我々を取り巻く環境の変化があげられます。海外から安くて品質のいいものが入ってくるようになり、また他社製品と差異化したり、価値の創造やビジョンを構築したりすることも難しい時代になりました。さらに社員の意識にも原因があります。会社に対するロイヤリティーが希薄になり、事業多角化の結果、企業ブランドに対する考え方が分散化したこともそのひとつ。広告宣伝の対象を製品ブランドに絞り込んだことも企業ブランドの知名度低下につながったといえるでしょう」

 

 こうしたゆでガエル現象に危機感を抱き、昨年2月に立ち上げた社長直轄プロジェクトのひとつが、コーポレートブランド再強化プロジェクトです。これまでの生温い企業体質から脱却し、新たなブランド価値を加えたグンゼらしさを提供することで、社会に支持され、必要とされる企業をめざします。

 プロジェクトのポイントは「機能重視のプロダクトアウト発想から、情緒に目を向けた顧客から選ばれる発想」への転換です。児玉社長はこういいます。

「かつてはいいモノを作れば売れる時代でした。素材開発力、技術開発力に優れ、品質のいい商品が作れることが、グンゼの強みであり、こだわりでした。しかし、今は消費者の嗜好が多様化したため、自分にとっていいモノだと感じなければ売れない時代。企業に対する欲求も物理的なものから情緒的なものへと変わっています。機能などの物理的な欲求だけでなくプラスαの何かがないと、グンゼらしさや強みを発揮できなくなっているのです」

 

 プラスαが何かを見つけ、新たなブランドアイデンティティの構築と戦略立案のために編成されたのが、コーポレートブランド再強化プロジェクトチーム。各事業部門から10名前後の精鋭が集まり、今年5月までに約20回の会議が行なわれました。そのなかで浮上してきたのが「ここちよさ」というキーワードです。情緒的な価値として「ここちよさ」に着目し、毎日のここちよさの満足度を高めるために顧客起点のものづくりに転換するといいます。

 その内容をまとめた「ブランド憲章」を策定し、ブランドロゴの表記も新しく統一。高い志が絵に描いた餅にならないよう、週に一度の朝礼で全従業員がブランド憲章を唱和しているそうです。

 

「ブランドとは、織物に例えると経糸(不易)と緯糸(流行)のちょうど交差点にある重要なもので、企業を継続的に成長させる原動力。バランスシートに表れる有形資産だけでなく、無形資産であるブランド力の強化に注力することが、結果的にバランスシートの改善につながります。今後は、研修などを通じてブランド憲章を全社に浸透させ、社内理解を徹底することが重要」と児玉社長は話します。

 

 社会に支持され、必要とされる企業をめざし、ブランドアイデンティティの刷新と社員の意識改革からはじまったグンゼのブランド再強化プロジェクト。激しい市場競争のなかでかつてのポジションを取り戻し、低迷する業績を回復できるか。児玉社長のリーダーシップと決断力にも期待がかかります。

 

大商ブランドフォーラムでブランド戦略について講演する児玉和社長
大商ブランドフォーラムでブランド戦略について講演する児玉和社長
グンゼ本社の受付では、児玉社長にそっくりののどかちゃん人形が出迎えてくれます
グンゼ本社の受付では、児玉社長にそっくりののどかちゃん人形が出迎えてくれます